すしっぽいネコ

ようこそ。我輩は「スシネコ」。作家志望の日本語教師、生山葵にまとわりつく居候である。 最近彼もようやく重い腰をあげ、夢に向かって歩み始めてはいるが、まだまだ頭が固い。吾輩が見ておかねば。まるで子供のようだ。やれやれ、蜜柑もゆっくり齧れん。 「モノは言いよう」とか言っているがはたしてどこまで続くか…。                    ※ここにあるのは全て練習用だが、すべて著作権を有するものとし、無断転載・無断引用は固く禁ずる。守れぬ場合は、吾輩が直々にすしの呪いをかけてやる。 ※2(お話・シナリオを描くお仕事募集中。ただ、急を要さないものでお願いします。


我輩はスシネコである。
名前はある。
久々の更新であるが、何も11月17日を境にサボり始めたわけではない。
いや事実サボったことになるわけだがまぁ落ちつけ話を聞け。

実はこれを書いていたのだ。

ジャン

 
告知用

この絵は私の友人Kに描いていただいたものである。
夏目漱石じゃないぞ(蹴
え?何のために、とな?
よくぞ聞いてくれた!

ビッグサイト コミックマーケット85 
12月31日(火)
東ウ-14b ”桜夏堂×すしっぽいネコ”

のためである!!
桜夏堂様との合同サークルでござい。
テーマは「男の娘」。
性別に捉われない生き方って素敵じゃない!でも女性が男性らしく生きることは結構アリだけど逆はなかなか難しいよね、っていうそのもどかしさを抱きながらも女の子への魅力はつきない男心って大好物なのですわハイ。
簡単にあらすじ説明すると、

あるところに女の子という生き物に憧れを抱いていた女々しい男の子がいました。男の子は意を決して女の子に変身(要一時間超)する! 見た目が変わっただけなのに新しい世界を生きているかのように感じていた彼の元に、女の子大好きお嬢様が現れる! さぁどうする男の娘!?

というラブコメ(?)のお話。
当日の配布物は

・第0章 40ページちょい  0円
・第1章 100ページ超  500円

となっている。
尚この表紙は第一章の表紙となっており、0円の方はクソみたいな表紙がつく予定。

そう、「予定」。
実はまだ原稿出来上がっていないのである。

いそげ葵!締め切り滅亡まであと3日!!!!


追記
一日一話プロジェクトは15日から再開するであります。



「なぁスシネコ」
「あ?」
 普段の殴りたくなるくらいの偉そうな姿はそこには無く、スシネコは仕事もしないおっさんのそれに酷く似ていた。
 短い手で器用にマンガを読むスシネコは、顔も向けずに投げやりな返事をする。
「この続きは無いのか」
「呼びかけたのは僕のはずだったんだけど」
 指を栞代わりにしてマンガを閉じ、めんどくさそうにこちらに顔を上げる。
「何用だね」
 また、偉そうなスシネコに戻った。
「百年の恋が覚める時とはどんな時?」
「……このスシネコ。多方面に情報と感覚を張り巡らせてはいるが、色恋沙汰に関しては童貞にも負けぬ」
 その胸の張りよう、後ろにマンガの如き擬音語が見えた。威張ることじゃないからな、それ。
「しかしなんだね唐突に。君がそんなことを聞くなんて気持ち悪い」
「「めずらしい」だろそこは。いや、どうと言う事は無い。ただ単に、九十九年の素敵な恋をしていながらたった一つの事で嫌いになると言うのは、人の一生五十年。その二回分を無に返すようなことといっても過言ではないのだろうか、と思うと。じゃあそれは一体なんぞや、とね」
「我輩は童貞だが、世間一般で「百年の恋が覚めた」と言われている事は―――」

・なにかにつけて「あれ!これ!」というやたら指図する男。
・ナルシストな男
・ヘビースモーカーなのにキス魔
・バツイチ男
・マヌケな顔をしてアニメを見ている男
・アイドルと自分とを比べさせる男
・母親にパンツを買ってもらっている男
・制服姿はカッコいいが、私服がださい男
・鼻くそほじった手で手をつないでくる男
・デート時にショーウインドウに映った自分を見つめる男
・etc

「……らしい」
「百年の恋も冷める、ねぇ」
「確かにキツイのが少なからずあるな」
 スシネコは眉根を寄せながらウンウンと首を縦に振る。
 それに関しては、僕も否定しない。逆なら勘弁願いたい。
「でも、これって「一ヶ月の恋も冷める」じゃない? 百年って、気づくの遅くない?」
「ふむ、確かに。高校か大学で出会い、将来結婚しようと働き始め、やがては同棲生活など始めたりして距離が一気に縮まり、互いの家族と言う強大な壁を二人で乗り越え、多額の資金と労力を費やして結婚。その後子供を作り、育て、子供を通してより深まる理解。やがて子供も巣立ちし、子育て燃え尽き症候群を乗り越えて顔を見せる「二人の時間」。そんなころに訪れる「肉親の死」。最愛の父母を失う悲しみを、妻と二人で分かち合うことで耐えしのぐ。そんなことをしているうちに還暦。しかし六十歳からの手習いと言う言葉があるように、その時から何かを学び始めても大いに楽しめる。二人で一緒に楽しむのもよかろうな。やがて孫ができてあな忙しや。昔ついた杵柄。子育てベテラン組として孫という家族を二人で分かち合う。気がつけば八十、九十。よもや阿吽の呼吸の二人。言葉無くして思いを通わせることもできよう。望むことは痛み無き死。ろくに体も動かすこともできないが、お前が生きているならまだまだ幸せだ。あら何を言っているのお爺さん。私が先に死んだらろくにトイレもいけないじゃない、とか。そして訪れる一世紀。近所の人々から祝福され、もしかしたらひ孫もいるだろう。医者からも、よくまだ生きていられるものだと感心される。いやいや、コイツのおかげですよ。あらやだお爺さんそんな恥しい。とか。そんな時に、だ」

婆さん。スマン。ワシ実はな。お母さんにパンツ買ってもらっとったのじゃ。
あらやだお爺さん! 最低! 信じられない! もう離婚よ!

スシネコはテーブルの上で踊るように一人劇場を繰り広げた。
「だがな、意見よくみろ。こういうことを言っている人、ほぼ全員が「女」だ」
「ホモは?」
「あれは心が乙女だから「女」に入れていいと思う」
「つまり?」
「片一方の意見だけのデータなど当てにできないもんだ。だからもしも男性の意見もとれたなら、それは一ヶ月の恋のさらに半分。「二週間の恋も覚める」だ」
 スシネコはニヤリと口をゆがませる。
 何が童貞同等だ。ピュアぶっておいて、言うことは日本刀のように鋭くえげつない。
「なるほど、つまり振られたところで大したダメージではない、と」
「そういうことだ。直すべき点ではあるが、その程度の事で振るならその程度の気持ちだったと言うことだ」
「それかよほど見てなかったか、ということだね。それが愛とは、吉本にだって入れるだろう」
「待て。そういう意味では、「百年の恋も冷める」というのは正しいかもしれない」
「え?」
「お前、恋と愛の差がわかっているか?」
 色恋沙汰は全く駄目だと言っていたヤツが、恋と愛を区別するのか。
 ネコのくせに、生意気な。
「片思いで自分都合な理想を重ね、その相手だけを見ているのが「恋」、相手の事を想いながら、共に行く先を作っていくのが「愛」だ。つまり、百年の片思いなら別にマヌケをな顔してアニメ見ていることに幻滅されようが毛頭気にすることはないのさ」
 僕らは、初恋の相手に「愛しています」と言っただろうか。
 僕らは、自分の恋人に「恋しています」と言っただろうか。
 結局、百年の「愛」が覚める時がどんな時なのか、よくわからなかった。
 けどこの先、自分と死ぬまで添い遂げてくれた人が、どんな人であろうと、どんなことが発覚しても、きっと僕は「よく今まで隠し通せたな」と笑ってやるだろう。

「それ思うと、友人関係っていいよな。覚めただとかどうとか、そうなること無いから」
「友達と言う人間の寛容さ加減は、恋人以上かもね」
「吾輩の寛大さと言ったらその友達以上だな。なんせ我輩はお前の―――」
「ところで、冷蔵庫のプリン、お前のだった?」
「ゼッタイ、ユルサナイ」

 
おしまい 


街灯も無い、景色を墨で塗りつぶしたような暗い道だった。
鳥目ではあったが、辛うじて五メートルほど先は見える。だから、帰れる。この道をたどればうちへ帰れる。
僕はペダルに体重を乗せた。ゆっくりを加速するママチャリ。
闇夜に一人。月も無し。人気も無し。だが不思議と怖くは無かった。冬になろうとしている冷やかな風も、火照る体にとっては涼しいと思える。
つい鼻歌なんて歌っちゃったりして。どうしてこんなところでこんなにも機嫌がいいのだろう。
……僕は、どこから帰ってるんだ?
そう思ったその時。
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。ちょうど、僕の名前を呼んでいる。
「おーい、待ってー」
誰かと思ったが、そいつも自転車に乗っているのか、ヘッドライトが眩しくてその顔が見えない。
まぁいい。待ってと言うのなら待ってやろう。そして、一緒に帰ろう。一人より、二人の方がいい。
しかしそんな淡い期待を、その不気味なヘッドライトの軌道が恐怖心に変えた。右へ、左へ、自転車とは思えないほど不規則に、動く。
ゾクリと走る悪寒。ドキリと心臓が米粒レベルにまで圧縮する。なんだ、アイツは。僕が知っているヤツじゃないのか。
僕は再び前を向いた。ダメだ。止まっちゃダメだ。追いつかれちゃダメだ。
「待ってー」
改めて聞くと、言葉に熱のない、ぬめったような声。
誰だ。僕を呼ぶのは。
全力で自転車をこぐが思うように進まない。ペダルの回転数に反して速度は歩いているかのようで。
「待ってぇぇ~~~~」
気がつけば、声はすぐ後ろまで来ていた。恐怖が絶頂に達し、声帯が気絶する。
逆光に目を細め、闇に浮かび上がってきたのは、人ではなかった。
妖怪にも似たボサボサの体毛。生き物の顔とは思えない容姿。
そこには、自転車をこぐ、スシネコの姿が――――――――――――

「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
「まってえー」
 鉈でぶった切られたかのように現実世界に放り出された。体が反射的に跳ね起きる。だが現実世界と認識できてから数秒たっても、感覚はまだあそこのままだった。
 見慣れた汚い部屋。部屋干しの洗濯物は扇風機の風に煽られてゆらゆらと揺れる。
 ただ一つ違ったのは、スシネコが僕の上で「ふみふみ」していたこと。
「まってえー」
 こいつが不確定的存在でなければ、今すぐこの生意気な頭を鷲掴みにして、顔面を壁に引きずりまわした挙句に窓ガラスを割る勢いで放り投げてやるのに。
「……お前のせいで悪い夢をみた」
「失礼な。なぜ吾輩のせいなのだ」
「しらじらしいにもほどがあるな。知らないふりをするならもうちょっと上手にしろ。この怒りをどこに沈めればいいんだ……!」
「そりゃあ海の底でしょう。怒り(錨)だけに」
「なんだお前は。悪夢か。そうでなきゃこんなにイライラさせてくれやしないよなぁ?」
「おや、意外と勘が鋭い」
「は?」
 実力行使ができないから言葉で煽ってやろうと思ったら。なんだか当たったけど手ごたえがない、霞みを撃ったように拍子抜け。
「もっとも、吾輩がお前にしか見えてない時点でお前は気付いていると思ったのだがな。そう思うと勘が鈍い」
「どっちだよ」
 スシネコはどうでもよさそうに背を向け、当たり前のように冷蔵庫の中を物色し始めた。
「我輩はお前の夢であり、我輩はお前の夢だ」
「同じこと二回言わなくていいだろ」
「これを同じことと捉えるなら尚の事勘が鈍い。1-2。よってお前は勘が鈍い」
「鈍くて結構だから、その狙ったように最後の一個を断りも無く封を切るのやめろ。それ僕の朝飯」
「お前の朝飯は吾輩の朝飯」
 ろくに関節も無い手で器用にヨーグルトのふたを開けるスシネコ。そのままひっ繰り返すように喉へ。口の周りをヨーグルトだらけにして、満足そうに器を捨てた。
「――――人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如く也」
「織田信長がどうかしたのか。ティッシュどうぞ」
「ティッシュどうも。この意味がわかる?」
「死んだ人間からしてみれば、人の人生たった五十年なんて、夢みたいに一瞬で終わってしまうってことだろ?」
「もしかしたら、「みたい」じゃないかもな。お前が夢と呼ぶその中の住人が、お前の本体を認識できず、そこが夢などと欠片も疑わないように。僕らもまた、認識できない誰かの夢の一部にすぎないかも―――」
「そんなことは!」
「無いとは言い切れない」
 ふと、世界が削られたようで怖くなった。スシネコの顔に、いつもみたいなニタニタした表情は無い。僕の目を通してその奥まで見透かしてくるかのような、鋭い眼光を突きつける。 
 言い返せなかった。誰かが言っていた。在る事を証明するには、それをココに持ってくるだけでいいと。でも、無い事を証明することは、絶対にできない、と。
「……なんて、な。こんな仮説なら世界に掃いて捨てるほどある。生きていくうえで足をからめとられそうになる仮説なら、踏みつぶしてしまえ。でももしも、ちょっとでも少しでも足を運ぶことへの力になれるのなら、そんな意味も無い仮説でもいい。そっと拾って懐にしまっておくといい」
「これを、どう受け取ったら力になるんだよ」
「さぁ。人によっては、お前が感じたように、自分と言う存在に自信が持てなくなるものかもしれない。だから、その時は忘れてしまえ。でも、人によっては、もしも自分の為に生きることに疲れても、誰かが見ている夢なのならば、せめて悪夢とならないように生きよう、とか。そんな風に思ったりもできたりして。「儚い」と言うのは、「人の夢が儚い」と聞くが、実は「人は夢だから儚い」のかも」
 スシネコは大きな音を立てて冷蔵庫の上に乗る。そして大きなあくびをして、座布団のように丸まった。
 いつもそうだ。やつは、僕にしか見えないくせに、時折僕の感覚では到底追いつかない事を平然と言う。
 つまりあれだろ。夢だとか仮説だとか関係なく、歩みを緩めるな、って言いたいんだろ。なにがお前の夢でありお前の夢、だ。こんな覚めない夢があってたまるか。
 お前のせいで、毎日思考回路が忙しくてしょうがない。
 お前のせいで、毎日息を突く場所が無くなった。
 お前のおかげで、一人の夜が怖く無くなった。

――――― 一度生を得て、滅せぬ者あるべきか。

「さて、お前に悪夢を見せられたことだし、吾輩も寝るとしよう」
 前言撤回。やっぱりいなくていい。


おしまい

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