すしっぽいネコ

ようこそ。我輩は「スシネコ」。作家志望の日本語教師、生山葵にまとわりつく居候である。 最近彼もようやく重い腰をあげ、夢に向かって歩み始めてはいるが、まだまだ頭が固い。吾輩が見ておかねば。まるで子供のようだ。やれやれ、蜜柑もゆっくり齧れん。 「モノは言いよう」とか言っているがはたしてどこまで続くか…。                    ※ここにあるのは全て練習用だが、すべて著作権を有するものとし、無断転載・無断引用は固く禁ずる。守れぬ場合は、吾輩が直々にすしの呪いをかけてやる。 ※2(お話・シナリオを描くお仕事募集中。ただ、急を要さないものでお願いします。


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桜が踊る
蝉が奏でる
コオロギが歌う
雪が彩る
いつだって彼女は唐突に、そして同じところにいた。

「何してるの」
「ラブレターだよ」
「ふぅん」

彼女はこの世界の人にに恋をしない。
いつだって宛先は空想の人。
でも僕は、そんな誰かにでも恋ができる彼女を、羨ましくさえ思っていた。

「ねぇ、神様って、いると思う?」
「さぁ? どうして?」
「私はね、神様っていると思う。素敵じゃない?ずっと私たちを見ていてくださるなんて」

一体彼女の中の神様ってのは、どんなイメージなのだろう。宗教家でもないのにそんなことを言うヤツなんて最早絶滅危惧種だと思っていた。
そんな彼女は、世界がつまらないモノクロに見えていた僕にとって、最後の「色」だった。

「いつか、届くかな。
夢を信じてたら、届くかな」

そんなことを、大真面目に願う彼女。その横顔を見る度に、僕もつい、願ってしまうのだ。
神様とやら。叶えてやってよ。と。

そう言った翌日。彼女は死んだ。
5261枚の恋文を、抱えたまま。



〜 ドリーム イン ザ ラブレター 〜




「なぁ」
時の流れほど無情で残酷で無慈悲なものはない。
早くも二週間が過ぎた。
新年の決意は、僕を前に進めてくれているのだろうか。
「なんだ」
スシネコは、めずらしくおとなしく本を読んでいた。その姿勢だけは相変わらず態度デカいが。
「覚悟って何だ」
「なんだ突然藪から棒に」
「まさか、今までないことに気づいてなかったわけでもないでしょう?」
「そんなこと言ったら我らは無いものだらけだ。無い物を築くのが早いか、あるもので勝負を切るか。どちらが早い?」
「スタートが出遅れたから言ってるんだ。僕に今必要なのはエースかジョーカーだ」
いくらもってても使えなければ意味がないだろうに、と、スシネコは深いため息をつきながら重たそうに体勢を変えた。 
「わからないんだ。その先に何が待ち構えているのかわからない。何を知っていればいいのかわからない。そんな中で決める「覚悟」ってのにはどういう意味が込められるんだ」
「未来がわからないのに決める必要があるとすればその判断材料は過去にあるんだろう。となれば、退路を断ち切る勇気、か」
「退路を断ち切って踏み込んだ先でくじけてしまったら、待っているのは嘲笑と失望だろう?」
「くじけてもまた立ち上がればいいだろう」
「「お前は死ぬ覚悟があるのか」と言われてうなずき、その先にゴジラのようなあまりにも強大すぎる敵がいたら!? もはやその覚悟は勇気ではなく無謀としか言いようがないものだとしたら!?」
情けなくもなる。考えれば考えるほど、自分が臆病者であることを知らされる。
今研いでいる刃が、だんだん自分を殺すために研いでいるようにさえ感じてくる。
「……それでも、そのゴジラとやらに踏みつぶされるその瞬間にでも、その道に踏み込んだことを後悔しないこと。じゃないだろうか」
スシネコは表情一つ変えず、その言葉は凍傷を起こしてしまいそうなほどに冷たかった。
悔しかった。現状に満足したくない。もっともっと上へ行きたい。もっともっといろんな世界を見たい。その気持ちに揺るぎはない。
なのに、今その決断を迫られて自分はひるんでいる。
まさか。今の自分では、踏み込んだことを後悔するとでもいうのか。
まさか! まさかッッ!!
なのに、否定の言葉は飛び出して来てはくれなかった。
「日本は狭い。世界を見ようと思ったら必ず船か飛行機に乗らなければならない。乗るためにはチケットを買わなければならない」
スシネコは、テーブルの上に乗ってきた。同じ高さの目線が、いやに高く見える。見下ろしてくるようにさえ見える。
「その覚悟という名のチケットを、買わなければならないところまで来たのだ」
視線が痛い。
心の中でバラバラになっていた言葉を、無理やりつなげてくるようだった。
「……帰国したら、笑われるかな」
「だろうな。だが他人の評価の価値を決めるのは自分だ」
ボサボサの尻尾が、ゆらりと揺れる。
何だ。前足、揃えて座れるんじゃないか。まったく、どんな顔して僕を見ているんだい。
「恐れすぎじゃあ、ないのか」
わかってる。
かといって、それを放棄するように考えずにいることはしたくなかった。できることなら、その恐怖を飲み込んで見せたかった。
それが、できなかった。
「……港も空港も、一つじゃない。同じチケットが必要だが、別のところから出国してもいいんじゃないのか。少なくとも、今そんな状態で、見えている出国ゲートから発つのは、悪い予感しかせん」
気が付けば、時間がないと、技量が足りないと、僕は自分にわかっているふりをした言い訳をする。
そうだ。無いんだ。
足りないものだらけだ。
足りないものは、あるものからカバーしなければ
あるものを糧に、築かなければ。
あるものを、使わなければ。

「落ち着け」

スシネコは、僕の頭にその生意気な手を乗せた。
それが今は、悔しくもありがたかった。
何も考えずにただその世界の鮮やかさを見ていた幼少のころから、ずっと言われ続けてきたことを、もうそろそろ、できるようにならならなければならない時が来たのかもしれない。

ごめんな。
迷いなくそれを手にするには、僕はあまりにも臆病だった。あまりにも不器用だった。
欲しいものがたくさんありすぎて、僕は手を広げすぎている。
まずは落ち着いて、絞らないと。
僕の腕は、二本しかない。

「まさか『15日から再開します』ってのが、新年開けてからのこととは思わなかった」
スシネコは、僕が日本から持って帰って来た貴重なお菓子を躊躇いなく貪りながら僕を睨んだ。
「寛大な拡大解釈ありがとう。いろいろと忙しかったんだよ」
「友人は新年早々次から次へと依頼が来てるらしいぞ」
「…言ってくれるなよ。今一番気にしてることなんだ」
散らかった薄暗い部屋で、鈍くキーボードを叩く僕を見て、スシネコはため息をついた。
何も不思議なことはない。今の自分も、今までの結果も、当然のこと。
得るものは得られたし、自分でもわかるくらいに確実に少しずつ進めている。
だから気にすることはない。焦って闇雲になっても、空回りするだけだと言うのは今まで散々味わってきた。今はただ、この気持ちを忘れずに、ペースを落とさずにいればいい。
そう。この気持ちを、忘れずに。
「なぁ」
「気持ちはわかるが暗いぞ。田舎の夜道並みに暗いぞ。新年始まってまだ10日も経ってない。せめて自分の心にあった今年の抱負に恥じないように前を向け。で、なんだ」
「せめて食べ終わったお菓子の袋はゴミ箱にいれてくれないかな。スリーポイントシュートはずしてるよ」
「リバウンドをとるのはセンターの仕事だ」
「そのセンター、不在だからな」
スシネコはしぶしぶゴール下のお菓子の袋を拾いに行く。
静かな、狭くも二人だけの部屋。僕以外の誰にも認識できない、僕らだけの世界。
僕は、寂しくない。なのに、
なのに。
「悔しいな」
「悔しがる資格など、どこにもないけどな」
「ただ誰かが成功をつかもうとしているそれだけで」
「妬みにも似た何かがこみ上げてくる」
「なんて」
「小さい」
広大な行動範囲。密集した人集りの中で、僕は今、誰にも見られずに、ただじっとしている。
結果をつかんでゆく皆を見ていると、僕の速度は手漕ぎ船のように遅く感じる。
「手を緩めることだけは、できんだろう」
「わかってるよ」
今僕は、繋がりの中で生きている。支えられてここにいる。ぼくも、コイツも。
応えたい。応えなきゃ。応えるんだ。
「今年は、たくさん書くよ!」
「具体的数字は?」
「応募用作品5!依頼1!」
「うむ。アウトプットだけじゃなくて、本格的に需要を作りにいくか」
「ただ追いかけてるだけじゃ悔しいからな!」
2014年、残り356日。
僕たちは、教育機関卒業と共に、人生の締め切りをなくした。
これは、今年の目標であり、抱負であり、締め切りである。


あおい & スシネコ




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